コラム

アムステルダム「ホグウェイ」を訪ねて

アムステルダム「ホグウェイ」を訪ねて

“認知症の人だけが暮らす村”として世界的に有名になった「ホグウェイ」は、アムステルダム市内から高速で40分ほどの田園地帯、2~5階の低層の建物が多い静かな雰囲気の街にあります。

入居者の尊厳を守り健康的な生活を目指す

カフェからの景色

ホグウェイは、認知症患者になるべく過去に近い生活を送ってもらい、人間としての尊厳を守りなら健康的な生活ができることをコンセプトに運営されています。

認知症患者は、以前と違う生活習慣になると混乱してしまい、結果として病状を悪化させることがあるという理由からです。

スーパーマーケット

そこで、施設の庭には低木が植えられ四季を感じるように配慮され、五感を刺激する構成で、敷地内は自由に歩き回ることができます。

また、今までと同じような生活が送れるよう、スーパーや劇場なども併設されています。

現在、187人の入居者中正しく数を数えられる人はわずか3~4名しかいませんが、施設内のスーパーで買い物を思い出せるなど、認知症改善につながるような工夫が行われています。

25年前から施設の改革に取り組む

お酒を楽しめるバー

以前のオランダにおける施設は、認知症患者を個室に入れて鍵をかけ、薬を与えたりベッドに縛り付けたりし、外に出さないようにすることが基本だったそうです。

25年前に、ホグウェイがそうした状況の改革に乗り出し、10年前に新しく建物を建て直し、現在のマネジメントスタイルになりました。ホグウェイのやり方は従来の方法と相いれないことも多く、行政、政府との闘いの連続だったようです。

非営利団体であるホグウェイの運営費は政府予算によってまかなわれ、利用料金は入居者の過去の年収に応じて決まります。所得の無い人は無料、高額所得者の最高月額80万円の利用料金は国庫にプールされ、施設の運営費として再配分されます。

ニーズに応えて認知症改善につなげる

施設内の劇場

部屋割りは、入居者本人にヒアリングを行い、過去のライフスタイルを参考にして、それに近い人たちを一つのグループ(5~6人)にし、部屋入口には各自の写真と名前を表示しています。また、飲食に関しては入居者の過去の嗜好に沿って用意し、お酒も健康や精神的な問題がなければたしなむことができます。

劇場は通常の街にある劇場に近い造りになっていますが、施設運営には費用がかかるため、何もないときは一般企業の会議に貸し出されており、レストランカフェは一般人にも開放されています。

施設内ではそれぞれに適した音楽が流れ、壁や道には名前をつけており、標識を設けて、入居者は自分が施設内のどこにいるか認識できます。さらに、ランドリースペースでは洗剤の香りを感じることができる他、今までと同じように劇場や美容院に通い、理学療法室や音楽鑑賞室などを自由に利用きます。週1回30分を超える娯楽費、美容室利用、カフェの飲食費、スーパーでの買い物料金は利用者負担です。

リビングダイニングキッチン

なお、理学療法室は毎日のケアのためにあるわけでなく、身体全体の様子を見るためにあります。日本では整骨院が老人であふれていますが、転んで骨折した後のリハビリのためなど、一部分の改善だけではなく、全身を見るために設置されているそうです。

また、キッチンや家具はカントリースタイルの明るい色に加えて、都会的なライフスタイルの人たちにはシックなつくりが用意され、コスモポリタンという海外経験のある方には食事なども工夫されています。


文章 吉野ひとみ(日本セルフケア研究会 理事)